
特別な才能はない、でも強い好奇心はある。【Daijiro's Venture Stories: Phase.2】
覚悟と決意。
かくして、ボクがホテル支配人として栂池に住むという話になってきた。
26年前、アメリカに渡り、ユタ州でスノーボードを始めた。
その時以来の雪国生活の予感。
この場所に住むことに関しては全然いいよ。毎年、雪が降れば日本中のスノーリゾートを渡り歩くほど雪が好きだし。今は都心が生活圏だけど、山の暮らしに関しても大丈夫だよ。原始的な生活も好きで、年中アウトドアやキャンプ三昧だもん。
問題は、この栂池でホテルの運営するってことだ。
ホテルの運営どころか、ホテルの従業員すらやったことない(笑)
そんなボクがホテルの支配人なんて務まるんだろうか。
栂池のことをなにも知らずに、ひとりで考えていてもらちがあかないし、ひとまず栂池エリアの現状を見てまわることにした。
このエリアの宿泊施設は、昭和後期に流行したコンクリートむき出しのモダン建築やチロル風のペンションが多い。ちょうど昭和後期に起こったスキーブームの頃に建てられたか、もしくは改装・改築したものだろう。
それ以降、スキー客の減少とともに建物に手を加えず現状を維持したまま営業しているホテルがほとんどなのだそうだ。
新規の旅行会社からの送客には頼らず、これまで行ってきた “自分たちのスタンダード” を貫き営業しているホテルも多いと聞く。
ホテルの経営は自分たちの代で終わりにしようと思っていて、新たな集客のツールを増やす必要がないと考えているのだろうか。
そのため栂池エリアの宿泊施設の経営者一族の中にも、村の外に働きに出ている人は少なくない。
こうして、ホテルオーナーの高齢化と後継者不足が起こっている。
メインターミナルからまっすぐのびるメインストリートの両サイドに隙間なく建ちならぶ飲食店やスーベニアショップ。
そういった施設が徒歩圏内に集約され、まちのつくりとしては非常にコンパクトだが、逆にそれが観光しやすくて良い。
ポテンシャルはあるが、前述したように現在多くのスキー場周辺の集落が抱える問題が同様に栂池エリアの発展も妨げている。
これは、なんとかしたいよなー。
このエリアを、世界中の旅行客が行き交う So Cool な場所にしたい。
もちろん、新しいアクションを起こすばかりではなく、このエリアで同様の悩みを抱えている宿泊施設や店と協力して、従来の栂池の魅力に新たな付加価値を加えてたくさんの人が集まるまちづくりを推進し、栂池エリア全体で既存スタッフを雇用し続けられる環境を作りたい。
しかし、現在でも全国各地の町村で地域振興を推進する改革派と現状維持を求める反対派の意見がぶつかり合っているという話も聞く。
ましてや、これまで集落全体が現状維持で通してきた環境を外から来た人間が突然変えようとするのだから当然反対派が現れることも想定内。
そんな覚悟もたずさえて栗田オーナーの待つリゾートホテル栂池へ向かった。
邂逅、そして予想外の反応。
ホテルを案内されて、まず建物の予想以上の大きさに驚愕した。旅館棟とホテル棟、そしてそれをつなぐアネックスからなる巨大な宿泊施設に、目の前のゲレンデまで直結している広大な敷地。
率直に言うと、想像を超えるスケールにビビった!
さっきまで考えていた村おこしのことなんて後回しにして、このホテルのことだけ考えないと手も頭も回らないほどのサイズ感。
改めて、こんな大きな宿泊施設を自分が中心になってやっていけるのか。
不安だー。
不安なことだらけでヤバい。
でも、そこがまた面白そうじゃん!!
そう、何だか不思議と無理だとは思わなかった。
なんとかなるでしょ、という気持ちが不安に勝っている。
スキー場周辺を見てまわって危機感も感じたが、それと同じくらいか、もしくはそれ以上に魅力も感じた。
自分たちが起こすアクションをきっかけに、たくさんの人が訪れる栂池エリアを作りたいという気持ちがふつふつと沸いてきている。
——ホテル、ボクがしっかり引き継ぎますよ! 栂池もボクが盛り上げます!
リゾートホテル栂池の栗田社長に気持ちを伝えた。
ホテル運営は覚えることや、やらなければいけないことが死ぬほどありそうだが、なにより自分たちの手でベースを作っていく感覚が楽しそうだ。この “楽しいことをやりたい” というモチベーションは、何かに取り組むために重要な要素だと思っている。
「私たちも新しい視点で物事を見ることができる方が、この地域に新しい風を吹き込んでくれるのを期待しているんですよ。」
と、栗田社長。
おぉ、歓迎してくれているぞ。
ありがたい言葉に、俄然やる気が出る。
ちなみに、一緒に訪問したメンバーから聞いた後日談だが、そうは言ったものの栗田社長、ボクについてはかなり不安に感じていたらしく、新オーナーであるKENさんに「あの小川さんって人が支配人になるんだよねぇ? 大丈夫なのかい?」と、しきりに聞いてきたらしい。
まぁ、最初に栗田社長に会った時のボクは、まさかこんな展開になるなんて思ってもいなかったから、ロン毛にヒゲをたくわえていてお世辞にもビジネス向きの風貌ではなかったもんなぁ。
栗田社長、その節はご心配をお掛けいたしました!
あれから約1年。現在では信頼関係も構築できたと信じていますよ!
さて、一気にやらなければならないことが増えた。
自分の会社の引継ぎに、ホテルの運営計画。
栂池で一緒にアクションを起こす仲間も集めよう。